他の陸地に生息する種から、海や大洋といった障害物によって隔絶されていたことにより、地球各地に多様性が豊かな地域が生じた。しかしながら、人間は船や飛行機を発明し、過去の進化史上で出会うことがなかった生物種を接触させる力を持った。 人間による外来種の導入は、競争による在来種や固有種の絶滅や、遺伝子汚染による生物種の変化を通じて多様性に強く脅威を与える。
外来生物は、捕食者や寄生者、あるいは養分・水・光を在来種から奪う単に攻撃的な種であることがある。外来種は進化的背景や環境の影響によって競争力を持ち、在来種は同様の理由で外来種に対して防御的で競争力がないことがしばしばある(言い換えるならば、持ち込まれた生物のうち、在来種との競争に勝ち残る能力を持つ生物が、外来種として新たな環境に定着するのである)。外来種が生態系に導入され自立した集団を確立すると、その生態系にいる在来種は生き残れないかもしれない。以上の結果として、人間が異なる地域から種を持ち込むことを続けるならば、世界中の生態系において少数の種だけが優勢になることも起こりえる。
遺伝子汚染は、在来の個体群が存在する地域に、近縁の別の個体群が人為的に持ち込まれることで、両者の間で交雑がおき遺伝子が交じり合う状態になることである。遺伝子汚染が起きると雑種を完全に駆除する以外には、純粋な在来種を復元する方法がない。日本においては、タイワンザルとニホンザルの混血、コイやメダカの放流の問題、農業用マルハナバチの野外拡散による在来種への影響の例がある。
その他
生物多様性と関連を持ち注目を集めている出来事として両生類の減少がある。両生類は生態系の中で、小型動物の捕食者の地位にある。そのため、両生類が減少すると、昆虫の増加やそれに伴う生態系の撹乱がおきる可能性がある。
関連記事: 絶滅・環境問題・外来種
保全
生物多様性の保全は世界的に関心を呼ぶようになってきている。全ての人が現在の絶滅の範囲と重要性に同意するわけではないが、大部分の人は生物多様性が不可欠であると考える。
基本的には、保全の選択肢として2種類の主な類型、本来の場所(in situ)での生息域内保全(以下、域内保全)と別の場所(ex situ)での生息域外保全(以下、域外保全)がある。域内保全活動の一例としては、保護地域の設定がある。他方、域外保護活動には、遺伝資源の収集保全や人工繁殖などがある。日本において遺伝資源保存・提供を行っている機関は、農業生物資源研究所のジーンバンクなどがある。
通常、域内保全は理想的な保全戦略であるように思われるが、しばしば実現不可能である。希少種や絶滅危惧種の生息地が破壊されている場合には、域外保全が必要となる。さらには域外保全は、域内保全事業への後方支援を提供できる。適切な維持を確実にするためには双方の保全が必要であると信じる人もいる。
国家レベルでは、個々の生物種を保護するために必要な手順を明記した生物多様性行動計画(Biodiversity Action Plan, BAP)を用意することがある。通常この計画には生物種とその生息地の実際のデータが詳細に記載される。そのような計画は、日本では生物多様性国家戦略[15]、アメリカ合衆国では再生計画と呼ばれる。
持続可能な開発に関する世界首脳会議で討議された議題の中に「生物多様性に対する脅威」があり、継続的な植物の収集を補助するために地球規模の環境保全信託機構の設立が望まれるとされた。
関連記事: 保全生態学・アジェンダ21・生物の多様性に関する条約・国際自然保護連合
法律における位置づけ
生物多様性は、観察・目録化・保全を通して評価と解析されるべきであり、その後、政治判断の対象となる。これが法律的な位置付けを受ける開始点となる。
「法と生態系」の関係は、生物多様性にとって大変に古く重要な関係である。それは私的・公的な所有権について関与する。脅威にさらされている生態系の保護を定めるが、ある種の権利と義務(例:漁業権・狩猟権)についても定める。
「法と生物種」の関係は、より最近の問題である。それは、絶滅の危機にあり保護されるべき生物種を定義する。これらの法の適用に対して疑念を持つ人もいる。「法と生物種」問題について触れた法律としては、日本では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」、アメリカ合衆国では絶滅危惧種法(Endangered Species Act)がある。
「法と遺伝子」の関係は、わずか約1世紀の歴史しかない。家畜化や伝統的な植物選抜法など遺伝学的な手法は新しくはないが、過去20年間に遺伝学分野に起きた進歩が、法律を厳密化する元となった。新しい遺伝子工学技術により人々は、遺伝子の特許化、(生物が関与する細胞内外の)過程の特許化、新しい統合された遺伝資源の概念を作りつつある。遺伝子・生物・DNA・過程、これら内のどれが資源であるか定義しようと、熱い議論が今日繰り広げられている。
1972年のユネスコ大会では、植物などの生物学的資源が人類の共有資産であると取り決めた。資源が存在する国の外部では、この規則に触発されて、遺伝資源の大きな公的な保存事業を創立したのであろう。
新しい地球規模の協定(例:生物の多様性に関する条約)では、生物学的資源に関する権利(所有権ではない)を主権国家に与えている。生物多様性の静的な保全の考え方は消えつつあり、資源と革新の概念を通して、動的な保全の考え方に置き換えられつつある。
新しい協定は、生物多様性の保全、持続可能な資源の開発、および得られた利益の共有を、国々に対して勧告している。これらの新しい規則の下では、利益の共有と交換に、天然産物のbioprospecting(対象物と対象物の学術情報収集)または収集を、生物多様性に富む国に許可しなければならないと予想される。
国家主権原則は、アクセスと利益共有に関する協定(Access and Benefit Sharing Agreements, ABAs)として良く知られていることに対応させることができる。生物多様性条約の精神は、資源国と資源収集者の間に予め正しい情報を得た上での合意を形成することを含んでいる。その合意とは、「どの資源を用い、どのような目的で行うか」を明確にし、利益共有についての公正な取り決めを設定することである。これらの原則が守られない場合、bioprospectingは、一種のbiopiracy(生物資源の略奪)になりうる。
生物多様性基本法案の成立
日本国内法として、「生物多様性基本法案」が2008年5月20日に可決された。同法案は、人類存続の基盤である生物の多様性を将来にわたり確保するため、国、地方公共団体、事業者、国民の責務を明確にすることで環境保全等に関する施策を総合的かつ計画的に推進するものである。
最大の特徴は、開発計画を立てる際に環境アセスメントを行うことを義務付けたことである。これまで、日本における大型開発などで環境が破壊されるたびに、開発推進派と環境保全派との激しい論戦が交わされてきた。同法案の成立によって、今後より適切な環境論議がなされるものと考えられている。
創始者効果(海洋の生物多様性研究への展開)
生物多様性の研究分野は、狭い対象に集中しており、開始した人々の興味分野、すなわち陸生動物について過度に定義されていると批評を受けてきた。この研究内容の偏りはノースとアイリッシュによって「創始者効果」と名づけられた[16]。
フランスとリグは、1998年に生物多様性の文献を総括して、海洋の生態系の研究論文が不足していることを見出し[17] 、海洋の生物多様性研究を「手に負えない大問題」と呼んだ。接近しにくい深海領域よりも、サンゴ礁など接近しやすく多様な沿岸の系について、より多くの研究がなされてきた。今後、海洋環境保全は、生物海洋学の海洋生態系の分類と生物種データ収集に関する方法論的問題を解くのと同様に、新しくて国際的なメカニズムを開発しなければならない。
生物の大きさに関する偏り(微生物の多様性について)
生物多様性研究者ショーン・ネイは、地球上の生物多様性を構成している生物の大多数は微生物であり、現在の生物多様性の研究は物理的に「目に見える世界に固定されている」と指摘した(ネイは「目に見える」を「巨視的」の同義語として使っている)[18]。微生物は、多細胞生物と比較すると、代謝的にも環境的にも非常に多様である。「リボソームの小サブユニットRNAの解析に基づけば、生命は3系統に分岐しているが、見える生命はそれほど注目すべき分岐枝ではない」と、ネイは述べている。これは驚くにあたらない…というのは、「目に見える生物」が現れるまで、「目に見えない生物」(微生物)には、進化を進め多様化する20億年以上の時空間があったためである(節「#生物多様性と進化」参照)。
しかしながら、これに対する反論として、生物多様性の保全として「排他的に目に見える種に焦点を合わせた」ことは決してないということが指摘できる。 当初から、生物群集や生態系の型の分類・保全は、生物多様性研究の主体であった。生物分類から漏れている「目に見えない多様性」は「目に見える多様性」と同様に扱うことができなかったが、この過去の多様性保全の思想から、生態系の多様性を維持する最善の手段をとってきている。したがって、過去の生物多様性の研究の成果は、生態系を構成している「目に見えない生物」の多様性も可能な限り維持してきたと言える。
参考記事:極限環境微生物・16S rRNA系統解析・生物の分類#三つのドメイン
資源としての利用
生態学者と環境保護主義者は、生物多様性の保全に関して、まず始めに経済的な側面から議論を行った。
経済的な価値を持つ製品(食品・薬品・化粧品など)を生み出す資源の供給源として生物多様性は重要である。この生物資源管理という概念は、生物多様性の衰退に伴う資源喪失の危惧と関連してくる。生物多様性を資源とみなす考え方は、天然資源の分配・割当のルールに関する新しい衝突を引き起こす元にもなっている。
生物多様性が持つ経済的な価値の推定は、生物多様性の分布について議論するために必要な前提条件となる。その議論の終着点は、環境保全に対して財政的支援を行う決定を伴う必要がある。
多様性を持つ生物群という意味において、以下の項目で生物多様性(≒生物資源)は利益をもたらす。
食品
人間への飲食物の提供。食用に用いられる陸生動物には、脊椎動物・昆虫類(昆虫食)がある。海洋生物については、魚をはじめ多様な種が食用に用いられている(例:甲殻類・軟体動物・藻類)。その他、食用になる陸生生物として、穀類や野菜などの種子植物、シダ植物、およびキノコ(菌類)などがある。また、菌類の一部(酵母、コウジカビ)や真正細菌の一部(酢酸菌・乳酸菌・納豆菌)などは、発酵食品の製造に用いられている。
薬品
パラグラフ マンツ 東京ドド セダン キーボ オープナ ランドスケ フィギュア オシロ きゅうじ カオス トムソ ブック ゾンホルル うみがめ ピリン ココア ナイーブ デメリット ロバスト プレー けいこう マチネー メサ スクリー Sぎさん オフィビ ムスカリ スイーツ メタン デンパ アベバ 羽衣便り 五番街 パンケ じゃが 楽しむ トロイカ 万華鏡 サラダ ギネ バカンス ウォッ とよころ スタイロ ジャスト パワーシフト イクラ 紅の翼 レッテ
直接的あるいは間接的に、生物資源に由来する薬品は多い。しかしながら、多様な植物の中で、新薬の供給源となる可能性について徹底的に調査が行われたのは少数にすぎない。抗生物質や産業用酵素は、生物を利用して作られている。
工業原料
広範囲の工業原料は生物資源から由来する。これらは建築材料、繊維、染料、天然樹脂、接着剤、ゴム、および油脂を含む。より広範に生物の多様性を継続的に調査していくことは、利用可能な素材を増加させる莫大な可能性を持つ。
レジャー、文化、および芸術的な価値
田舎で散歩を楽しむこと、野鳥観察、テレビの自然史番組の視聴といったレジャー活動を通して、生物多様性から人類は恩恵を受けている。音楽家、画家、彫刻家、作家、および他の芸術家といった人々は、生物多様性に触発されることがある。自分たちが自然界に統合されている一部であるとみなし、他の生物に敬意を払っている文化的な集団も多い。
その他の生態系サービス
生物多様性は人類が当然のこととして享受している生態系サービスを供給している。生物は、大気と水の供給において化学的制御の一端を担っている。また、栄養物の循環や、肥沃な土を供給するのにも関与している。環境制御実験によって、人為的な生態系は簡単には構築できないことが判明した(生態系を構築する試みやバイオスフィア2を参照)。
脚注
^ 環境省「生物多様性条約」生物多様性センター「生物多様性条約の本文」
^ biological diversityは、1970年代から使われていた。
^ National Forum on Biological Diversity, 1986年開催
^ E.O.Wilson (ed.), F.M. Peter (associate ed.), Biodiversity, National Academy Press, 1988. ISBN 0-309-03783-2; ISBN 0-309-03739-5.
^ V.H. Heywood, R.T. Watson (executive ed.), Global Biodiversity Assessment, Cambridge University Press, 1995. ISBN 0-521-56481-6. ("Biodiversity", Glossary of terms related to the CBDの情報源。またこのサイトには biological diversity について25種類の定義が列記してある。)
^ K.J. Gaston & J.I. Spicer, Biodiversity: an introduction, Blackwell Publishing. 2nd Ed., 2004. ISBN 1-4051-1857-1
^ R.H. Whittaker, "Evolution and measurement of species diversity", Taxon, 21, pp. 213-251 (1972).
^ N. Myers, "Threatened biotas: 'hot spots' in tropical forests", Environmentalist, 8, pp. 187-208 (1988).
^ N. Myers, "The biodiversity challenge: expanded hot-spots analysis", Environmentalist, 10, pp. 243-256 (1990).
^ 大森信、ボイス・ソーンミラー『海の生物多様性』「鉛直分布」pp.84-87。(2006年)
* 魚類種数のみに限れば、1,000mより深い漸深海層では海表層の数分の1になるが、その他の小型動物の多様性は水深2,000m以深で多様性が最大になるものがある(C.M.ラリー、P.M.パーソンズ『生物海洋学入門』「6.6海産魚類」「8.8深海生態学」)。
^ 『海の生物多様性』「種多様性の傾き」pp.48-50,「水平分布」p.87-88
^ J. Alroy et al., "Effect of sampling stanardization on estimates of Phanerozonic marine diversification", Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America, 98, pp. 6261-6266 (2001).
^ S.L. Pimm, G.J. Russell, J.L. Gittleman, T.M. Brooks, "The Future of Biodiversity", Science, 269, pp. 347-350 (1995).
^ P. Ehrlich, Extinction, Random House, New York (1981). ISBN 0-394-51312-6.
^ 環境省「生物多様性国家戦略」(2002年)生物多様性センター「生物多様性国家戦略」
^ K.E. Irish, E.A. Norse, "Scant emphasis on marine biodiversity", Conserv. Biol., 10, p. 680 (1996). - 「創始者効果」との命名は一種の言葉遊びである。生態学・集団遺伝学の用語「創始者効果」は、「個体数の少ない集団を元にして、隔離された生物集団が新しく作られるときに遺伝的浮動が起こること」を指す。
^ R. France, C. Rigg, "Examination of the 'founder effect' in biodiversity research: patterns and imbalances in the published literature", Diversity and Distributions, 4, pp. 77-86 (1998)
^ S. Nee, "More than meets the eye",Nature, 429, pp. 804-805 (2004).